第2 訴訟物の設問
1 「記載せよ」と「説明せよ」に注意
「記載せよ」なら,結論だけを書く。
「説明せよ」なら,説明する。
(1)基本
訴訟物,個数,複数の場合は併合態様を書く。
p.1の「請求原因・抗弁・再抗弁・再々抗弁記載例関係一覧表」だけを見て,請求原因の1~25までの訴訟物を正確に記載ようになれば,完璧。
個数,複数の場合の併合態様は,忘れやすいので,注意する。
(2)主体の変更がある場合
訴訟物に関係する主体として,ⅰ訴訟当事者,ⅱ権利義務の主体,ⅲ発生原因の当事者,の三つがある。
ⅱ,ⅲは,通常はⅰと一致するが,一致しない場合もある。
ⅱ権利義務の主体が一致しない場合は,債権者代位訴訟の場合。
ⅲ発生原因の当事者が一致しない場合とは,譲受債権訴訟の場合。
これらのときは,訴訟物の記載において,「AのYに対する」「A・Y間の売買契約に基づく」などと記載する。
code:※
「AのYに対する」はⅱ権利義務の主体の表現
「A・Y間の売買契約に基づく」はⅲ発生原因の当事者の表現
https://gyazo.com/e11d0f5bea51831e4274d4726fe0a6d2
(3)ちょっと変わった権利の場合
詐害行為取消訴訟,請求異議訴訟,債務不存在確認訴訟,などは,何が訴訟物になるのか,『事実摘示記載例集』などを参考に,チェックしておくとよい。
(4)その他,要注意訴訟物
・土地所有権に基づいて建物収去土地明渡を請求する場合
・土地賃貸借契約終了に基づいて建物収去土地明渡を請求する場合
3 訴訟物の説明方法
(1)書くべきこと
code:書くべきこと
ⅰ 処分権主義の説明
ⅱ 訴状の該当箇所を引用して,原告が主張している権利を指摘
ⅲ その権利の実体法上の性質論
ⅳ 訴訟物の特定(基準を立てて,あてはめる)
ⅴ 訴訟物の個数(基準を立てて,あてはめる)
(2)構成例(あくまでも,「構成」の「例」。)
code:構成例
第1 訴訟物の説明
1 訴訟物及びその個数
売買契約に基づく代金支払請求権 1個
2 説明
(1)処分権主義について
民事訴訟法の基本原則である処分権主義によれば,原告が審判の対象とその範囲を決定し,裁判所はそれに拘束される(民訴法246条)。
そこで,訴状のよって書きと請求の原因を見ると,Xは,よって書きにおいて,「売買契約に基づき」と記載しているし,請求の原因第2項で,XY間の売買契約の成立を主張している。したがって,Xは,売買契約に基づく権利を訴訟物として選択しているようである。
(2)訴訟物の特定
ア 売買契約に基づく権利について
民法555条によれば,売買契約が成立すれば,売主は,買主に対して,代金を請求することができる。この権利は,債権的な請求権である。
イ 訴訟物の特定
債権は,権利義務の主体,権利の内容,発生原因によって特定される。
権利義務の主体は,X・Yである。権利の内容は,売買代金2000万円である。発生原因は,XY間の本件土地についての代金2000万円の売買契約である。権利義務の主体,発生原因の契約当事者は,訴訟当事者と一致するので,訴訟物を記載する際,特に明示する必要はない。
そこで,訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権となる。
(3)訴訟物の個数
契約に基づく請求権は,契約ごとに発生するものと考えられるので,訴訟物の個数は,契約の個数によって定まる。
本件では,契約は1個なので,訴訟物の個数も1個である。
(3)その他の基本的訴訟物の説明
物権的請求権なら,物権的請求権が認められること,物権的請求権の種類とその区別の方法,物権的請求権の個数,などを書く。
(4)主体の変更がある場合
債権者代位訴訟,譲受債権訴訟の訴訟物を説明するときは,どの権利が訴訟物になるのか,きちんと説明する。
その際は,債権者代位権の性質,債権譲渡の性質から論じるようにする。
また,権利義務の主体と,発生原因の当事者を区別して論じていることを示すこと。
(5)ちょっと変わった権利の場合
詐害行為取消訴訟,請求異議訴訟,債務不存在確認訴訟などは,そもそもどういう訴訟なのか,等を説明することが必要になる。
詐害行為取消訴訟なら,折衷説に言及することは不可欠。請求異議訴訟なら,請求異議訴訟の法的性質をどう考えるかを論じるべき。
(6)訴訟物の個数について
ア 基本的なもの
契約に基づく権利:契約の個数
物権的請求権:物権の個数×物権侵害の個数
イ 応用的なもの
実体法的側面と訴訟法的側面の両面から考える。
(ア)実体法的側面
その権利が,どのような権利なのか。
たとえば、請求権? 形成権?
基本は,アに記載した考え方。
(イ)訴訟法的側面
既判力の範囲や,訴え変更の要否の範囲,二重起訴にあたるかどうか,など。
別訴訟物としたら不都合とならないか,民訴の通説と矛盾しないか,手続保障はどうか,など。
例えば,詐害行為取消訴訟で,被保全債権の個数は訴訟物の個数のメルクマールとなるか?の問題。「既判力の範囲からすれば,被保全債権ごとに別訴訟物だとすると,被保全債権の個数だけの回数,訴えを提起することができてしまう。これは紛争の一回的解決からして不都合なので,被保全債権の個数はメルクマールとならない。」というような思考方法が,訴訟法的側面からの思考の一例。